ザッハトルテと甘くない歴史

2023.10.16 知識情報

ザッハトルテと甘くない歴史

お菓子ケーキチョコレートフォンダン歴史

ザッハトルテは濃厚な味わいのチョコレートケーキですが、その名前をめぐって昔、長い争いがありました。今回はそんなザッハトルテのお話です。



ザッハトルテとは?


ザッハトルテはチョコレート味のスポンジにアプリコットジャムが塗られ、溶かしたチョコレートで全体がコーティングされたオーストリア、ウィーンを代表するケーキです。


1832年、オーストリアの政治家で宰相のクレメンス・メッテルニヒは、専属の料理長に来賓をもてなすための特別なケーキを作るように命じます。しかしちょうどその時、料理長が病気になってしまい、代わりに見習いだった16歳のフランツ・ザッハーが担当しザッハトルテを作ったといわれています。


当時、すでにチョコレートのケーキは存在していたものの、艶やかなチョコレートフォンダンで覆われているケーキはこれまでにない新しいものでした。
このケーキは評判になり、のちにフランツ・ザッハーはハンガリーの名門貴族の厨房に引き抜かれるほどでした。


ザッハトルテ_挿入画像1_ウィーンにあるシェーンブルン宮殿の画像.jpg



オリジナルの「ザッハトルテ」をめぐって裁判


ハンガリーからウィーンに戻ったフランツ・ザッハーは自分の店を持ち、それを息子のエドゥアルドがホテルに変えました。「ホテルザッハー」の誕生です。妻アンナの商才によりホテルは成功していましたが、アンナの死後は一転、財政が苦しくなります。


そこに王室御用達の有名ケーキ店経営者が、ザッハトルテの販売権を条件に援助を申し出ます。資金援助のかわりに製造方法も手に入れ、そのケーキ店でも「ザッハトルテ」の販売をはじめました。


息子のエドゥアルドとケーキ店の経営者が他界後、ザッハトルテの名称を巡ってホテルザッハーがケーキ店を訴えます。その裁判は7年にもおよびました。


ザッハトルテ_挿入画像2_ウィーンの街並み.jpg



違いはアプリコットジャムの位置?


長い裁判はアプリコットジャムを塗る位置で終わりを迎えました。


スポンジの表面のみアプリコットジャムを塗れるそのケーキ店に対して、ホテルザッハーは表面とスポンジを横半分に切ってその間にも塗られています。
ホテルザッハーの訴えは認められ、オリジナルを名乗ってよい結論に至りますが、ケーキ店も「ザッハトルテ」を販売してよいことになります。


ホテルザッハーはケーキの表面にオリジナルを主張する丸いチョコレートのメダルがのり、一方のケーキ店では三角形のチョコレートのエンブレムがのり、違いを強調して販売されています。



こだわりと誇りがつまった「ザッハトルテ」。
今度ぜひ、伝統あるウィーンの銘菓を味わってみてはいかがでしょうか。



【参考文献】
『ケーキの歴史物語』ニコラ・ハンブル 著 堤理華 訳(原書房)

『お菓子の由来物語』 猫井登 著(幻冬舎)



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