乳糖果糖オリゴ糖がどんなものかをご紹介するシリーズの6回目。今回は大腸内でビフィズス菌が増えることによる影響の一つ、排便回数の増加について、45名の妊婦さんを対象に行われたヒト試験をご紹介いたします。安全性も検査により試験しています。
(前々回の女子大学生と前回の高齢者を対象にしたヒト試験の記事は下のリンクバナーからご覧いただけます)
塩水港精糖株式会社の伊藤哲也らが行った試験をご紹介します。
試験の結果、乳糖果糖オリゴ糖の摂取によって一週間の排便回数が摂取前の5.2回から6.2回へと増加したことが観察されました。被験者の状況など、少し長いですが試験の詳細を順に説明していきます。
後半に試験結果を簡潔にまとめましたので、下の「まとめ」もご参考に。
~~~~~~~~~~
【試験詳細】
「ラクトスクロース(乳糖果糖オリゴ糖)の摂取が妊婦の便通および腸内菌叢におよぼす影響と安全性の検討」
被験者:妊娠4か月から6か月の便秘傾向を自覚する妊婦45名。
試験食品:乳糖果糖オリゴ糖を1日当たり6.62g摂取。プラセボ食品(※)には試験食品と同色・同形状に調整したマルトースを用いた。
※ プラセボ食品とは外観などを試験食品と同じにした有効成分を含まない食品。被験者に自分が摂っているのが、試験食品かプラセボ食品か分からないようにして試験。
試験スケジュール:被験者を無作為に試験食群(23名)とプラセボ食群(22名)の2群に分け実施。非摂取の「前観察期」4週間、摂取した期間「摂取期」4週間、摂取中止後の「後観察期」4週間の全12週間にて試験。
調査項目:排便回数、排便日数、便の量、便性状、排便感、腹部症状、糞便成分、糞便菌叢解析、血液生化学検査、血液学検査、尿検査、出産後調査
結果:
【排便回数などについて】
(便秘傾向を自覚する人として被験者を募集して45名にて試験を開始。途中で3名が辞退し42名が完了したが、排便回数が前観察期で一週間当たり13.5回など極端に多い人がいたため、10回/週以上の3名を除いて39名にて集計)
〈 乳糖果糖オリゴ糖摂取が排便回数などにおよぼす影響 〉
項 目 | n数 | 前観察期 (4週間平均) |
摂取期 (4週間平均) |
後観察期 (4週間平均) |
|
---|---|---|---|---|---|
排便回数 | 試験食群 | 21 | 5.2±1.6 | 6.2±2.2* | 5.8±1.6 |
プラセボ食群 | 18 | 4.6±2.2 | 5.2±2.2 | 4.8±2.1 | |
排便日数 | 試験食群 | 21 | 4.1±0.9 | 4.6±1.2 | 4.5±1.1 |
プラセボ食群 | 18 | 3.6±1.2 | 3.9±1.4 | 3.9±1.3 | |
排 便 量 | 試験食群 | 21 | 9.3±3.9 | 11.7±6.0* | 10.7±5.3 |
プラセボ食群 | 18 | 8.4±5.1 | 9.3±4.0 | 8.8±4.1 |
*有意差あり
解析をおこなった結果、「排便回数」については前観察期の平均5.2回/週が摂取期の平均6.2回/週へと有意な増加が認められた(p<0.05)。
「排便日数」については前観察期の平均4.1回/週が摂取期の平均4.6回/週へと増加したが、統計上の有意な差とはならなかった。
「排便量(※)」については前観察期の平均9.3個/週が摂取期の平均11.7個/週へと有意な増加が認められた(p<0.05)。
※ 排便量:Mサイズの鶏卵(径3.5cm、長さ5cm、重さ50g)に換算して記録。
【便性状に及ぼす影響】
各試験期における便の形状、便の色、便の臭い、便の硬さ、排便後の感覚の5項目に関して分析。全ての項目において試験食群、プラセボ食群ともに前観察期、摂取期間に差は認められなかった。
【糞便成分分析】
各試験期間における糞便pH、水分量、アンモニア量、有酸素濃度、およびビフィズス菌数を分析。
〈乳糖果糖オリゴ糖摂取による糞便分析 (試験食群)〉
試験食群 | プラセボ食群 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
前観察期 | 摂 取 期 | 後観察期 | 前観察期 | 摂 取 期 | 後観察期 | |
糞便pH | 6.97±0.38 | 6.67±0.77 | 6.67±0.53 | 7.25±0.52 | 7.23±0.45 | 7.21±0.34 |
水分量(%) | 70.6±5.8 | 74.0±6.6 | 71.8±8.8 | 69.6±7.7 | 70.6±10.7 | 69.7±8.3 |
アンモニア量(mg/g) | 1.03±0.43 | 0.86±0.43 | 1.15±0.45 | 1.45±1.20 | 1.48±1.13 | 1.06±0.36 |
有機酸濃度(μmol/g) | ||||||
蟻酸 | 2.32±2.27 | 2.55±2.61 | 1.82±2.06 | 1.97±2.06 | 1.62±1.67 | 1.88±1.69 |
乳酸 | 0.60±0.64 | 0.83±0.84 | 0.72±0.75 | 0.66±0.77 | 0.45±0.45 | 0.53±0.55 |
酢酸 | 18.87±11.96 | 20.53±11.06 | 20.47±14.72 | 13.70±9.29 | 16.79±10.00 | 13.34±9.74 |
コハク酸 | 2.32±3.98 | 5.73±6.26 | 2.54±2.90 | 6.07±4.22 | 5.92±3.53 | 8.65±7.83 |
プロピオン酸 | 4.97±6.12 | 3.31±2.33 | 3.06±2.41 | 5.94±4.87 | 5.29±6.15 | 4.48±4.14 |
n-酪酸 | 1.41±1.45 | 2.04±2.5 | 0.95±0.84 | 5.01±6.85 | 3.43±4.56 | 3.18±4.94 |
ビフィズス菌数(Log cfu/g) | 8.06±0.51 | 8.48±0.43 | 8.02±0.67 | 8.06±0.59 | 8.30±0.32 | 8.44±0.58 |
・「糞便pH」は試験食群において摂取期で低下傾向、後観察期で有意に低下した。
・「水分量」は試験食群において摂取期で増加傾向を示した。
・「ビフィズス菌数」は試験食群において摂取期で有意に増加した。
・「アンモニア量」、「有機酸素濃度」は試験食群、プラセボ食群ともに有意な差はみられなかった。
【糞便中のビフィズス菌などの占有率分析】
〈乳糖果糖オリゴ糖摂取によるビフィズス菌などの占有率〉
菌 種 | 試験食群 | プラセボ食群 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
前観察期 | 摂 取 期 | 後観察期 | 前観察期 | 摂 取 期 | 後観察期 | |
ビフィズス菌 (%) | 20.4±11.1 | 29.1±9.6 | 20.0±8.1 | 18.2±12.6 | 20.7±13.2 | 21.8±14.5 |
乳酸菌 (%) | 5.7±6.3 | 6.7±5.8 | 5.2±4.3 | 5.7±6.6 | 5.0±5.3 | 6.8±8.8 |
バクテロイデス属菌 (%) | 33.5±12.9 | 30.0±12.4 | 35.2±10.5 | 33.9±10.2 | 35.4±10.0 | 31.5±13.1 |
プレボテラ属菌 (%) | 0.8±2.2 | 2.1±7.8 | 3.1±7.1 | 2.0±6.2 | 1.4±4.3 | 1.1±3.4 |
クロストリジウム属菌 (%) | 28.8±13.4 | 23.5±7.1 | 26.3±7.5 | 30.8±11.5 | 29.9±12.8 | 31.3±10.7 |
その他の菌 (%) | 10.7±7.1 | 8.6±5.6 | 10.2±6.3 | 9.3±5.2 | 7.5±3.9 | 7.5±4.6 |
・ 「ビフィズス菌」の占有率は試験食群において摂取期で有意に増加した。
【血液生化学検査・血液学検査・尿検査】
血液生化学検査、血液学検査および尿検査の結果は問診も含め医師により全てで臨床上の問題はないと判断された。
考察:
妊娠維持に必要で妊娠に伴って分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)は、腸の蠕動運動を抑制するため、弛緩性便秘の要因となる。また妊娠中は、腹筋力の低下により排便時の腹腔内圧が高まらず便秘を起こしやすくなることが知られている。
本試験では摂取前の排便回数が一週間当たり13.5回など極端に多い被験者3名を除いて統計解析を行い、試験食群では摂取期の排便回数および排便量が前観察期と比べて有意に増加した。
糞便中のビフィズス菌数も乳糖果糖オリゴ糖の摂取により有意に増加し、糞便pHの低下傾向、糞便水分量の増加傾向が認められた。また、ビフィズス菌の占有率も摂取期において有意に上昇することが確認された。
ビフィズス菌は、整腸作用の他に血中コレステロール低減作用、免疫賦活作用、抗腫瘍作用、病原菌増殖抑制作用を有することが報告されており、近年では予防医学の面からビフィズス菌が注目されている。妊娠中に乳糖果糖オリゴ糖を摂取しビフィズス菌を増やすことは便通の改善を超えて妊婦の健康維持に役立つと考えられる。
腹部症状などの調査や身体検査、血液検査、尿検査を行い安全性の評価を行った結果、腸内細菌による一時的な過剰発酵が原因と考えられる膨満感を訴えた人が増えた以外、腹部症状を訴えた人は前観察期より少なく、各検査結果も含めて医師は安全性に問題はないと判定した。
さらに、出産後1年半後まで追跡調査を実施し、母子ともに健康であり、重篤な有害事象は発生していないことも確認している。
(伊藤哲也ら 応用糖質科学、4(1) : 39-48, 2014)
~~~~~~~~~~
・妊婦45名(妊娠4ヵ月から6ヵ月)、乳糖果糖オリゴ糖を 6.62g/日・4週間摂取
今回ご紹介したヒト試験では、妊娠4ヵ月から6ヵ月の妊婦45名に乳糖果糖オリゴ糖を1日6.62g、4週間にわたり摂取してもらっています。
・排便回数: 5.2 回/週 → 6.2 回/週
排便回数が摂取前4週間の平均5.2回/週から、摂取し始めて4週間の平均で6.2回/週へと増加しました。
・排便量:鶏卵換算で 9.3個分/週 → 11.7個分/週
排便量は、鶏卵のサイズに換算して摂取前4週間の平均9.3個/週から、摂取し始めて4週間の平均で11.7個/週へと増加しました。
・ビフィズス菌占有率の変化: 20.4% → 29.1%
糞便中の細菌を調べた結果、ビフィズス菌の占有率は摂取前の20.4%から、摂取し始めて4週間後で29.1%へと増加しました。
・安全性(血液検査・尿検査): 医師により全てで臨床上の問題はないと判断
乳糖果糖オリゴ糖の摂取前と摂取後で血液検査、尿検査を実施、問診も含めて臨床上の問題はないと医師により判断されました。
また、出産後1年半後まで追跡調査を実施し、母子ともに健康であり、重篤な有害事象は発生していないことも確認されました。
女性は月経前や妊娠中に黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌増加により腸の平滑筋が弛緩され蠕動運動が低下し便秘になりやすくなります。また妊娠中期から後期では、子宮の膨大により腸が圧迫され蠕動運動が低下し、便秘を発症する女性が多くなります。
今回、そのような便秘傾向を自覚する妊婦に4週間、乳糖果糖オリゴを摂取してもらった結果、下剤のような急激な排便増加ではありませんが、大腸内でビフィズス菌が増えて徐々に腸内環境が整った結果と思われる排便回数の増加が確認できました。
同時に血液や尿などの検査も実施し、臨床上問題となる変動は認められず、医師による安全性の確認も行われました。
以上により、乳糖果糖オリゴ糖の摂取による大腸内のビフィズス菌の増加は、妊婦の便秘の改善にも役立つことが分かりました。
今回は「乳糖果糖オリゴ糖ってどんなもの?」シリーズの6回目、排便回数の増加や安全性について妊娠さんを対象に行ったヒト試験をご紹介いたしました。
腸内細菌叢を整えることは排便に限らず、カルシウムなどのミネラルの吸収や免疫にも関係しますので妊婦さんにとって積極的にとり入れたい健康への取り組みだと考えられます。
乳糖果糖オリゴ糖の摂取によるミネラルの吸収促進やアレルギー症状の緩和などのヒト試験も行われていますので、次回以降、順次ご紹介いたします。
次回も見てくださいね。
【関連記事】