乳糖果糖オリゴ糖がどんなものかをご紹介するシリーズの7回目。今回はカルシウムの吸収促進についてのヒト試験をご紹介いたします。
腸内環境を整えることのメリットはいくつもあり、さまざまな研究が行われています。排便回数の増加や免疫機能の改善、また、ストレスの低減や睡眠への影響などの研究もあります。
そのような中で今回は株式会社横浜国際バイオ研究所(現塩水港精糖株式会社糖質研究所)の藤田孝輝らが行ったヒト試験をご紹介します。
まず試験結果を簡単にまとめます。その後でヒト試験の関連する部分の詳細をご説明します。そしてページの最後に他のヒト試験へのリンクバナーを置きますので、よろしければそちらもみて下さいね。
・尿中カルシウム総排出量が増加 :
82.0mg → 94.0mg (馴化後※ 95.7mg)
男性14名に対するヒト試験の結果、カルシウムと一緒に乳糖果糖オリゴ糖を摂ることで、乳糖果糖オリゴ糖を摂らない時と比べて腸内でのカルシウムの吸収が約14.6%増える結果となりました。
※馴化後:2週間続けて乳糖果糖オリゴ糖を摂った後の試験結果。
・尿中カルシウムを測定する理由
もともとカルシウムは吸収率が低い栄養素です。高いと言われる牛乳で40%、小魚で30%程度しか吸収できず、食べても吸収されない分は腸を素通りして便として排泄されてしまいます。
腸で吸収できたカルシウムは血管を流れ、骨の新陳代謝の材料となりますが、血管を流れるカルシウムの一部は尿として排泄されます。その腸からの吸収量と尿での排泄量には正の相関があることが分かっているのです(*1)。
そのため今回の試験では尿中のカルシウム量を測定しています。
今回のヒト試験の結果は、乳糖果糖オリゴ糖を摂取すると腸内でビフィズス菌がそれを食べて短鎖脂肪酸を出し、腸内が弱酸性になることで、他の食品から摂ったカルシウムが腸から血管内へと吸収される量が増えたことが示唆されるものでした。
そして馴化後にさらに吸収が促進されているのは、乳糖果糖オリゴ糖を2週間続けて摂ることで、腸内のビフィズス菌の数が増えた結果だと考えられます。
以下、試験内容の詳細をご説明いたします。
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「健常男性におけるラクトスクロース(乳糖果糖オリゴ糖)配合顆粒の単回および2週間連日摂取の尿中カルシウム排泄におよぼす影響」
◆試験食品: 塩水港精糖㈱製造の乳糖果糖オリゴ糖を3.342g含む顆粒状品「オリゴのおかげEX顆粒(現オリゴのおかげダブルサポート顆粒)6g」。プラセボ食品(※)は違いが分からないように同じ形状にしたマルトース。
※ プラセボ食品とは、外観・味などを試験食品と同じにした有効成分を含まない食品。被験者に自分が摂っているのが、試験食品かプラセボ食品か分からないようにして試験されます。
◆被験者: カルシウム代謝に異常がない男性14名。
◆実施スケジュール: 非摂取期間を2週間取った後、「単回摂取試験」として乳糖果糖オリゴ糖とカルシウム(300mg)を同時に摂取してもらい、尿中カルシウム排泄量評価試験を実施。また「馴化後試験」として、それ以降、乳糖果糖オリゴ糖を2週間連日摂取し、同様に尿中カルシウム排泄量評価試験を行った。
◆尿中のカルシウム排泄量評価試験の詳細:
被験者は試験実施日の前日21時までに夕食を済ませ、それ以降、水以外は断食。
試験実施日は、試験食品とカルシウム剤、蒸留水、提供の食事(朝食は焼きおにぎり2個(50g/個)、昼食はたらこスパゲッティ(186g))のみに摂取を制限した。
朝食を9時前に摂取、9時に試験食品とカルシウム剤を摂取。昼食は13時から摂取。
朝、午前7時にまず完全排尿、その後、9時直前から午後5時まで2時間ごとに完全排尿してもらい、それぞれの成分を分析した。
◆測定項目:
「医師による問診・聴打診」
「理学的検査(体温)」
「血液検査(ナトリウム、カリウム、塩素、カルシウム、無機リン、マグネシウム)」
「尿検査(カルシウム、クレアチニン、マグネシウム、無機リン、デオキシピリジノリン(DPD)」
〈 乳糖果糖オリゴ糖の摂取が尿量・尿成分におよぼす影響 〉
項 目 | 単 位 | プラセボ摂取時 | 乳糖果糖オリゴ糖 〈 単回摂取時 〉 |
乳糖果糖オリゴ糖 〈 馴化後 〉 |
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尿量 | mL | 1427.6±356.9 | 1627.9±355.5* | 1641.3±456.8* |
尿中Ca総排出量 ※1 | mg | 82.0±28.3 | 94.0±39.0* | 95.7±36.8* |
Ca排泄増加量 ※2 | mg | 23.7±35.9 | 43.1±21.8 | 45.2±36.8* |
総Ca/Crn 比 | 62.6±23.9 | 71.3±31.3* | 74.6±32.9* | |
Crn 総排泄量 | mg | 544.1±114.2 | 542.7±96.6 | 538.4±109.6 |
IP総排泄量 | mg | 205.3±86.3 | 230.3±81.0 | 243.3±94.4 |
Mg 総排泄量 | mg | 35.1±8.9 | 36.7±15.9 | 37.0±14.5 |
DPD | nM/mMCrn | 4.7±1.5 | 4.2±1.4 | 3.8±1.4 |
平均値=標準偏差
※1:摂取後8時間までの2時間ごとに排出されたCaの総和
※2:摂取後8時間までの(2時間ごとに排出されたCa量ー0時間で排出されたCa量)の総和
* :プラセボ摂取時と比較して有意差あり(p<0.05)
プラセボまたは乳糖果糖オリゴ糖顆粒6.0gとCa300mgを同時に摂取させ、2時間おきに8時間目まで採尿した。
その後、乳糖果糖オリゴ糖顆粒6.0gを2週間馴化後に乳糖果糖オリゴ糖顆粒6.0gとCa300mgを同時に摂取させ同様に採尿した。
・「尿中カルシウム総排出量」はプラセボ摂取時と比較し、乳糖果糖オリゴ糖摂取時で有意に増加した。
・総Ca/Crn比でもプラセボ摂取時と比較して乳糖果糖オリゴ糖摂取時で有意に増加した。
【乳糖果糖オリゴ糖の摂取が2時間ごとの尿中カルシウム排泄量および尿中Ca/Crm比に及ぼす影響】
・2時間ごとの尿中カルシウム排泄量は、プラセボ摂取時と比較して単回摂取時で6h時点、馴化後では2hと4h時点でそれぞれ有意に増加した。
・2時間ごとのCa/Crn比は、プラセボ摂取時と比較して単回摂取時で2hと8h時点、馴化後では2hと4h時点でそれぞれ有意に増加した。
(藤田孝輝ら 日本食品新素材研究会誌 第9勘 第1号)
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今回は、「乳糖果糖オリゴ糖ってどんなもの?」シリーズの7回目、カルシウムの吸収促進についてのヒト試験をご紹介いたしました。
この他に乳糖果糖オリゴ糖の摂取によるアレルギー症状の緩和などのヒト試験も行われていますので、次回以降、ご紹介いたします。
次回も見てくださいね。
【参考文献】
(*1): 『"カルシウムの不思議"「カルシウム その基礎・臨床・栄養」』西沢良記他編(社団法人全国牛乳普及協会)
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